大町スイミングは北アルプスの麓にある。
天気がよければ、雪を戴く立山に手が届くほどの距離だ。
平日の夕方、ふだんどおり選手たちがやってくる。友人どうしで楽しそうに話しながら入ってくる生徒。遅刻ぎりぎりで飛び込んでくる生徒。やってき方はさまざまだが、一様に楽しそうだ。
更衣室に入って着替えを済ませ、プールサイドに整列。プールサイドに緊張感が漂いはじめる。
練習が始まったのは六時三十分。 オレンジ帽子を被った新人選手(小学校低学年)から高校三年生まで、それぞれのコースに入ってウォーミングアップを始める。
アップを終えるとスカーリングやドリル練習が続き、いよいよメイン練習がスタートする。
メイン練習に入ると、選手たちの激しい呼吸音と小気味よいキックの打音がプールに木魂する。選手たちの真剣さが、音として響く。
しかし、ここまではふつうのスイミングスクールと大差ない練習である。
苦しい練習をこなして、ようやくクールダウンとなった時のことだ。普通なら疲れ切っているはずの子どもたちが、「この時間を待っていた」 とばかりに笑顔を輝かせ、楽しそうに隣の選手と話をしながら、歩いたり、水中体操をしたりしはじめたのである。
のびのびと今日の練習についてや、これからの大会について語りながら、コースでクールダウンしている。
コーチのお一人、近江ギリッグコーチに、選手コースについてお話をうかがってみた。
指導のモットーは『心を育む指導』。楽しく明るく伸びやかに水を楽しませながら、「子どもたちの『勝ちたい』という気持ちを大事に育てたい」とのこと。そのためにも、個性を伸ばす指導を心がけているそうだ。
五月に行われたジャパンオープン(2016)において、50m平泳ぎで決勝に進出した高校生や、ジュニアオリンピックで決勝に進出した選手たちの横で、小学校低学年の小さな子どもたちが、楽しそうに練習している。
本気の練習を終え、充実感に満ちた和気藹々さのなかで、みんなが楽しみながらダウンしている。
全力を出し切った者だけが感じられる至福の時だ。
このダウンの和やかさに、選手たちは明日への鋭気を養っているのではないだろうか。 |